健康リスクマネジメント 277 ウイルスに勝つには免疫力だ 22 細胞のリサイクルシステム「オートファジー」
11/5~12/5まで「空腹は最大の力なり」を31回、連載してきました。
この連載は本年の健康本でベストセラーとなった
「空腹こそ最強のクスリ」をベースにしたものです。
このサブタイトルがオートファジーから生まれたとありますので、
石原医師はすでに2年前から空腹について書いておられますし、
5年前には南雲医師も書いておられ、空腹についていろんな考察の健康本が出ています。
今回、石原医師は、免疫力をつける方法として、筆頭にあげられたのが、空腹効果です。
まず、過食、飽食で免疫力が低下しているならば、
空腹こそ免疫力がアップするわけで、
それをオートファジーが証明してくれたわけです。
この研究でノーベル生理学・医学賞を2016年に受賞され、
オートファジーは注目されています。
この研究の第一人者である大阪大学医学部教授、吉森保先生の開設の一部を紹介します。
・・・iPS細胞などの再生医療と同様、世界中の研究者がしのぎを削る、
ホットな研究分野が「オートファジー」だ。日本語では「自食作用」と訳され、
細胞の中で行われるリサイクル・システムを指す。
がんやアルツハイマー病といった病気の解明・治療にもつながると期待され、
その研究はノーベル賞級ともいわれる。
しかも、リードしているのは日本の研究者たちだ。大阪大学の吉森先生もその一人。
吉森先生と一緒に、さまざまな生物に共通した
「根源的な生命現象」の謎に迫ってみよう。
オートファジーと聞いても、中学生や高校生には「?」でしょうね。
それもそのはず、細胞生物学を専門とする人たちの間ですら、
広く知られるようになったのは最近のことですから。
私が研究を始めた17~18年前には、
「ジショク作用? 吉森さん研究を辞めるんですか?」なんて真顔で言われたものです(笑)。
ところが、21世紀に入って状況が一変。1990年代の半ばまで世界で年に
数十本しかなかった研究論文の数が、いまは優に3000本を超えるようになりました。
しかも、日本が研究をリードしているんです。
これほどまで注目されるようになったのは、
オートファジーが生物の生存に極めて重要な役割を果たしていること、
そして、多くの病気と密接に関係していることがわかってきたからです。
オートファジーの「オート」は「自己」で、
ごくごく簡単に言うと、細胞の中の余計なものを細胞自体が取り除くシステムです。
不思議なことに、小さな掃除機のような器官が突然現れ、細胞の中を掃除する!
そう、まさに突然、何もないところから掃除機が現れるんですよ。
古くなったり壊れたりしたたんぱく質やミトコンドリアといった細胞内の小器官は、
これにより除去されます。さらにオートファジーがすごいのは、
集めた“ゴミ”からたんぱく質の材料を作り出すところです。
成人男性は1日に約200gのたんぱく質を合成しているのですが、
体内に取り入れるたんぱく質の量は60~80gしかありません。
その差は、オートファジーが補っているんです。
オートファジーは当初、
「細胞が飢餓状態に陥ったとき、自らの一部を分解し栄養に変える仕組みだ」と
考えられていた。そのため、「自食」という名前がついたのだが、
この「飢餓に対応する」ことに加え、先述したように
細胞内の「浄化」の役割があることも明らかになってきた。
また、「防御」の役割を持つことも判明している。
こうした大きな発見がもたらされたのには、
「オートファジーの父」と呼ばれる大隅良典先生(現・東京工業大学特任教授)の
功績が極めて大きい。
大隅先生は1993年までに14個の関連遺伝子を発見、
それを機に、劇的に研究は進んでいくのだった。
大隅先生がオートファジーの謎を解明するきっかけをつかんだのは
ある日、いつものようにご自身が専門にしている酵母
(出芽または分裂により増殖する菌類。お酒やパンに使われるのもその一種)を、
顕微鏡を使って観察していたところ、
ピチピチ飛び跳ねる小さな粒がたくさん見えた。
「いったいこれは何?」。不思議に思った先生は、
直感的にオートファジーに関係しているのではないか? と考えたそうです。
というのも、酵母を飢餓状態においたときに見えた現象だからでした。
実際、そのとおりで、大隅先生は観察と実験を重ね、
この現象がオートファジーによるものであることを突き止めます
(跳ねていたのは、図の②のオートファゴソーム)。
さらに、人工的に突然変異を起こした酵母を、手当たり次第調べることで、
オートファジーに関係する遺伝子を次々と発見していきます。
現在、30種類以上の関連遺伝子が発見されていますが、
そのうち最も重要な14種を大隅先生が見つけました。