40日ファスティング経験者の本音!

ファスティング(断食)の素晴らしさやファスティングの正しい方法、効果などを紹介しています。

クリスチャンドクター・日野原重明の生き方、死に方 10 妻に言えなかったこと 

104歳になられた日野原先生は、これまでのような公の活動は減り、

自宅でくつろぐ時間が増えるというこれまでにない体験をされます。

このエッセイにも104歳の誕生日を迎え、自分の身体のこと、

自分流のマナーを身に着けたことなど回想が多くなっています。

その中でも少し前に先に天に召された奥さんへのエッセイ

「妻に言えなかったごめんなさい」は圧巻です。

奥様は40歳で免許を取得し、ご主人を田園調布の自宅から聖路加病院まで

毎朝、送られることになります。

日野原先生が40歳台後半の頃です。

 

・・・毎朝、私は妻の作った昼食用のサンドイッチをカバンに入れ、妻の運転する車で家を出ました。

私は車の後部座席に座り、テープレコーダーに原稿を吹き込みます。

急いで返事しなければならない手紙もあります。

私を病院に送り届けると妻は家にとって返し、

私の吹き込んだテープを私の帰宅時までに原稿用紙に清書していたのです。

そんなある朝、事件は起きました。

運悪く何かの用事で家を出るのが遅れ、研修医の回診に遅刻しそうになっていました。

気が急いていた私は、混雑する道で、

もっとスピードを出すように妻に強く迫ったのです。

妻がなかなか他の車を追い越せないでいると、

私は環八通りと中原の交差点で無理やり車を止めさせ、

そのまま無言で、通りかかったタクシーに乗り込むと築地に向かったのでした。

残された妻は、交通整理の巡査に導かれて側道で待機させられ、

環八通りを自宅へ引き返したようでした。

妻は心の中で「何というひどい人か」と、私に怒りを覚えたに違いありません。

しかし彼女はその夜、帰宅した私に一言の不満も口にしませんでした。

私は「ごめん」とも「悪かった」とも言わず、

謝れないまま月日は流れ、妻に先立たれてしまったのでした。

物静かでも強さを内に秘めていた妻に、

あの朝、私は心細い思いをさせ、怒りという、苦しい感情を抱かせてしまった。

記憶がよみがえるたび、複雑な心持になり、

今では「トラウマ」のようでさえあるのです。・・・

 

少し長い引用になりましたが、

この妻への罪責を持ち続けられたことがやはり

正真正銘のクリスチャンたる信仰の姿勢で、安心しました。

なかなか男は妻に素直に謝れないものです。

それを罪責として104歳まで60年間も持ち続けられたことは、

その一回の出来事を以後、繰り返すことはなかったということになります。

日野原先生最後のエッセイでこれを書かれたのは、

この本の一番の圧巻、中心であると思います。