ヒルデガルトファスティング 04 ヒルデガルトの生涯 04 ヒデルディカルトの幻(ビジョン)とは
ヒルデガルトの幻視体験は対外的には40歳代の『道を知れ』で初めて示されたが、
その序文で実は5歳頃から体験していることが述べられている。
またその中で彼女は、この幻視体験が興奮状態(トランス)や瞑想状態ではなく、
実に意識がしっかりしていて周囲の状況が分かっている正常な覚醒状態で生じ、
それを受けている時も周囲で現実に生じている事象を同時に知覚している
と述べている。
そしてこの幻視体験を Visio(ヴィシオ、英:ヴィジョン)
という言葉で表現している。
具体的な幻視の状況について、
彼女は後にギベールへの書簡(書簡No.103r,1175年)の中で次のように述べている。
「生き生きした光の影」が現れ、その光の中に様々な様相が形となって
浮かび上がり輝く。
炎のように言葉が彼女に伝わり、また見た物の意味付けは一瞬にしてなされ、
長く、長く記憶に留まる。
また別の「生ける光」がその中に現れる事があるが、
それを見ると苦悩や悲しみがすべて彼女から去ってしまい、気持ちが若返る。
これらの幻視が示す内容は、ほとんどがキリスト教に関わる事柄であり、
彼女の基盤となったベネディクト会の規範の範疇で解釈され意味付けがなされている。
またこれらを表した幾つかの絵画に見られるように非常に象徴的であり、
中世修道会のもつ神秘主義的な面が強く現れているとして
後のスコラ学と対比される点でもある。
伝記、著作品、書簡などから伺えるのは、彼女がベネディクトの
戒律を厳格に守る修道女であり、当時のベネディクト会派の中でも
特に保守的であったということであろう。
これは彼女の性格やユッタ・フォン・シュポンハイムの影響が
大きかったということもある。
「教会」(エクレシア)という概念に対しては非常に強い愛着を示している。
簡単にいえば「教会は神と一体であり、我々はその愛情に包まれている」
という修道会特有の考え方に対して大きな共感をもっていた。
彼女はマリアの処女性を投影し、「キリストの花嫁」を強調して、
「教会」は一層女性的な性格を帯びることになる。
ここにヒルデガルトのフェミニズムを見て取る事ができるとする考え方もある。
聖母マリアについては、当時既にマリア崇敬が広まってきており、
ベネディクト会の中でもそれを積極的に肯定する者も多く現れていた。
マリアという対象そのものには無関心に近く、
マリアの処女性という事に対してのみ非常に強い関心を表している。