健康リスクマネジメント 82 病気の方程式 73 人類の敵 05 結核菌 03
5:BCG
ジェンナーが牛の天然痘ウイルスを人体に植えて
人に免疫をつけたのが天然痘(ほうそう)の予防接種でした。
同じように毒力をぐっと弱めた結核菌を接種して、
軽い結核のような反応を局所に起こさせておき、
本当の結核菌が後からきた場合に対抗する免疫をつけておく、
というのがBCG 接種のねらいです。
BCGは特に子供の結核の予防に有効なことが証明され、
しかも最も安全な予防接種として世界で広く用いられています。
日本では生後4~6か月までに1回受けるように勧められています。
6:ツベルクリン反応検査とQFT検査
結核菌の感染を受けると、病気になる、ならないとは関係なく、
人体には結核に対する免疫、つまり抵抗力ができます。
このような人に結核菌のある成分を注射しますと、
人体は結核菌が侵入したと思って敵対的な反応(アレルギー)を起こします。
これを皮膚で起こさせたのがツベルクリン反応です。
正式には「(精製蛋白誘導体)」というタンパク質です。
これを少量水に溶かして皮内に注射すると、アレルギーのある人、
つまり結核の感染を受けた人では徐々に注射部位が赤く腫れ、
しこりが触れるようになり、2日目に最も強くなります。
アレルギーのない人、つまり結核菌に感染したことのない人では
ほとんど反応はありません。
このように結核のアレルギーの有無で、
結核菌に感染したか否かを判定することができるのです。
特異的な抗原を用いた結核感染の診断方法が開発され、
BCGによるツベルクリン反応と結核菌感染によるツベルクリン反応が
鑑別可能になりました。
7:結核集団発生の舞台
結核の集団感染といえば、家族からうつされた子供が、
学校で何人かの友人にうつすとか、塾の教師が生徒にうつすとか、
子供の世界に多かったものです。
ところが最近は、この集団感染の役者が子供から成人へかわってきています。
かつて(1950年頃) は20歳といえば、もう半分以上が自然陽転、
つまり結核菌に感染していました。
それより上の世代はというと感染を受けた人がほとんどで、日本の成人は
これ以上、別の結核菌に感染することはなかった、
だからあらたに結核菌に感染するのは、感染を知らない子供たちだけだったのです。
ところが今は、中年の人でも結核に未感染のひとが大多数ですから、
結核菌に会えば感染(へたをすれば、そのまま発病も)します。
そのため集団感染の舞台も、学校から普通の職場に移っているのです。
日本の社会を「結核」という眼鏡で見ると、
既感染(胸に菌を持つ)と未感染という2つのグループに分けられます。
この2群の同居関係が続く限り、
「既感染グループでの発病→未感染グループでの感染・発病」という危険が
いつもある、というわけです。
集団感染の予防には日頃からの健康チェックと早期発見、
そして集団生活の場で結核の患者が1人でも出たら、
その周囲の人々の検診や観察(「接触者検診」)が重要です。