健康リスクマネジメント 08 健康リスクとは 04 自殺大国日本 03 中高年男性の自殺の原因・生命保険の普及 01
日本の自殺分析をしていくと20世紀末からの自殺の急増でとくに目立ったのが、
高齢者ではなく、中高年男性の自殺という事実が分かってきました。
1997年と2003年の自殺率を性別・年齢階層別に較べると、
40~49歳の男性が1.68倍と最も増加し、50~59歳の男性が1.55倍でそれに次ぐ
(『自殺対策白書』)のです。
それは地方においても同じで、たとえば自殺率も自殺増加率も高かった秋田県でも、
1993~1997年から1998~2002年での自殺率の増加は、
45~54歳と55~64歳男性でそれぞれ1.68倍、
1.62倍と性別年齢階層のなかで1、2位を占めている
(自殺予防総合対策センター「自殺対策のための自殺死亡の地域統計1983-2012」)のです。
ゆえに20世紀末の自殺の急増を考えるためには、
地方の中高年男性の動向に注目する必要があるのです。
なぜ彼らがなぜこの時期、自殺を選んでいくのかです。
その中で注目されている研究が、20世紀後半から大きく普及されてきた生命保険が
中高年男性の自殺の引き金になっていると提言している方があります(『自殺の歴史社会学』)。
確かに日本では高度成長期以後、中高年男性を中心に生命保険の普及が進みます。
それまで生命保険は養老保険という貯蓄性を重視したものでしたが、
死亡保険のみ(定期保険=掛け捨て保険)が増加していきました。
法人の場合は、定期保険が経費算入ができるようになったのです。
まず個人ベースでは、急増する核家族でした。
夫の給与に依存し、親族や近隣の人びとから孤立した核家族が、
まさかの時に備え生命保険に加入するようになります。
その保険を安心材料にして、先取りした消費もおこなわれるようになります。
また団体生命保険付きで資金があまりなくとも核家族は住宅を購入できるようになったのです。
そして中小企業の経営者はさらに普及が加速したのは、
掛け捨て=定期保険が全額損金計上できるようになったからです。
高度成長のなかで中小企業は、土地とさらに生命保険を担保として、
銀行の融資を取り付けることが求められたのです。
戦中・戦後の金融市場の転換によって、親族や投資家に資金を頼りづらくなった中小企業は、
こうして銀行の融資を当てとして規模を拡大するか、
事業を止めるのかの選択を迫られたのです。
こうして「命」を担保に生命保険に入る社長たちの増加が、
全国的に自殺の増加を引き起こす構造的な土台になった可能性があるのです。
生命保険加入を前提に住宅を購入し負債を抱えた核家族や、
さらに生命保険に多重加入することで融資を繋いでいた経営者が、
不況の際に借金を精算するために自殺は利用されただけではなく、
残される貨幣が「後顧の憂い」を断つことで、
自殺は増加していくのではないかと思われるのです。
それを裏付けるのが、高度成長期以後、
自殺総数に対して保険金支払い件数や金額が急増していくという事実があるのです。