武士道が生まれた背景 31 李登輝の武士道解題 09 第5章・仁・惻隠の心

・・・愛情、寛容、同情、憐憫は、昔から最高の徳とされ、

人間の霊魂の属性の中で、最も高貴なるものと認めらていた。

それは、二通りの意味において、王者の徳と考えられた。

すなわち、高貴な精神に伴う、多くの属性の中で王位を占める者として王者的であり、

王者としての道に特にふさわしい徳として王者的とみなされた。

慈悲は王冠よりも王者に似合い、王笏をもってする支配よりも強い影響がある

ということを、言葉で表現するにはシェークスピアを必要としたが、

これを心に感じるには、われわれは全世界の人々と同様に、

あえて彼を必要としなかった。

孔子や孟子も人を治める者の最高の条件は、仁にあると繰り返している。・・・

新渡戸は武士道の「仁」を考えるにあたり、まず「愛」をあげています。

これはキリスト教に帰依した私（李登輝）はひときわ感銘深いのです。

古来、人類社会において、「愛」は、

文学、道徳、哲学、宗教などいずれかの観点からいっても、

最も根本的な観念の一つでした。

とりわけ、キリスト教の文化圏では、

この観念をめぐってあらゆる思想が展開していきました。

東洋にも、「仁」とか「慈悲」という思想があります。

ただし他人を自分と同じように愛するというのは不可能とみています。

しかし、キリスト教はその不可能に挑戦し、

「自分のようにあなたの隣人を愛しなさい」とイエスは語りました。

それはイエスの「十字架の死」のよって示されたのです。

そうした絶対の「愛」が原型として考えられていたからこそ、

常人には不可能と思われる厳しい生き方を命じられたのです。

ギリシャ語では、「愛」は、エロス、アガペー、ピリア、ストルゲで

キリストの愛はアガペーです。

エロスは死と結びつき、アガペーの愛とは根本的に違います。

キルケゴールは、無限の質的差異と名付けています。

神と人間の融合も実質的合一も起こり得ない。

ただあるのは、神と人との交わりだけです。

神と人とは絶対の深淵によって隔てられていながら、

どうして交わることができるのか。

それこそイエスの真の存在意義が認められます。

イエスは神と人間の仲保者。

神の子イエスがこの地上に人間の肉として生まれたということが

「神の愛」の唯一の証なのです。

【解説】

武士道の仁は愛につながっていくのですが、

それはキリスト教の愛を知らないと武士道の仁を正しく継承できないのです。

李登輝の台湾総督のすべては神の愛の実現だったのです。